ファジーな要件を構造化する5ステップ — Forward Deployed Engineering(FDE)の実践

2026.06.13 ・ 約7分で読めます

「やりたいことはあるが、要件が書けない」。新規案件の最初に必ず聞く話です。RFPを書こうとすると業者比較ができず、現場に聞くと不満は集まるけれど打ち手にならない。私たちはこの状態を「ファジーな要件」と呼んで、入口から構造化することを請け負ってきました。5つのステップに整理します。

「要件定義の前」が大事な理由

RFPは要件が決まっていることを前提にした文書です。要件がまだ決まっていない段階でRFPを書こうとすると、書けないまま時間だけが過ぎます。本当に必要なのは「要件を決めるための作業」で、これを発注先の選定より先に終わらせる必要があります。

私たちはこの段階に入る働き方を Forward Deployed Engineering(FDE) と呼んでいます。Palantir 社が世に広めた概念で、エンジニアが顧客の現場に入り込み、要件を一緒に決めるところから関わる進め方です。「決まったものを作る人」ではなく、「決め方を一緒に作る人」が現場に必要だ、という発想です。

ステップやることつまずきやすい点
1. 棚卸し散在するシステム・契約・人を一覧化判明していない依存関係が必ずある
2. 課題の言語化現場の不満をMECEに分類表現を抽象化しすぎて打ち手につながらない
3. 選択肢の列挙各課題に対する打ち手案を3つ以上出す最有力案だけを並べると比較ができない
4. 評価軸の合意コスト・速度・既存影響などを定義軸を後から足すと結論が動いてしまう
5. 推奨と却下理由推す案と却下案の理由を併記推す案だけ書くと意思決定に使えない
表1:要件整理の5ステップとつまずきやすい点。順番を飛ばすと、後工程でやり直しが発生します。

ステップ1:棚卸し

最初にやるのは現場の棚卸しです。動いているシステム、契約しているSaaS、関わっている人、いま走っている案件、進行中の取引。一覧にして紙1枚に並べると、ほぼ必ず「誰も全体像を知らなかった」ことが分かります。

棚卸しの目的は把握ではなく 合意形成 です。同じ一枚を見ながら関係者で会話すると、認識のズレがその場で見えます。要件を決める前提として、まずここを揃えます。

ステップ2:課題の言語化

現場の不満を集めて並べると、似た話が複数の人から出てきます。これをMECE(重複なく漏れなく)に分類して、課題として言語化します。

注意点があって、抽象度を上げすぎると打ち手につながりません。「業務効率が悪い」では何もできない。「請求書の手入力に月40時間かかっている」まで具体にすると、打ち手の候補が見えてきます。

ステップ3:選択肢の列挙

課題
請求書の手入力
月40時間
案A
既存パッケージの
OCR機能を有効化
案B
RPAで自動入力
(既存資産活用)
案C
AI読み取り+
人の確認
図1:1つの課題に対して打ち手案を3つ以上出します。比較できる材料がない状態で意思決定はできません。

1つの課題に対して、最低でも3つの選択肢を並べます。最有力案だけを持っていくと、決裁者は「他に方法は?」と聞くしかなく、その場で意思決定できません。選択肢の不在は、決定の不在を生みます

ステップ4:評価軸の合意

選択肢が並んだら、何で選ぶかを決めます。コスト、導入速度、既存システムへの影響、運用負荷、内製可能性。案件によって重視する軸は違うので、ここを先に合意します。

軸を後から足すと、結論がひっくり返ります。「やっぱりセキュリティも見たい」が後から入ると、すでに進んでいた検討が無駄になります。軸の追加は意思決定のやり直しと同じです。

ステップ5:推奨と却下理由

最後に、推す案と却下案の理由を併記したメモを作ります。「A案を推す。理由は◯◯。B案は△△の点で却下。C案は◇◇の点で次点」という形です。

推す案だけ書いた資料は、意思決定の場で使えません。「他の選択肢を検討したのか」が分からないと、決裁者は判断できないからです。却下理由まで書くと、意思決定の場が短くなります。

FDEという働き方

この5ステップは、要件定義書を書く前にやる仕事です。発注書を書く前にやる仕事、と言ってもいい。要件が決まっていない段階で発注先を選ぶと、決まった人と決まっていない要件を一緒に決めることになり、立場の非対称で迷走しがちです。

私たちはこの段階に パートナーとして 入ります。発注先候補ではなく、要件を一緒に決める伴走者として。決まったあとの実装フェーズに進むかどうかは、要件と一緒に決めます。

FDE案件で実際に使うツール群です。
Notion Figma / FigJam Miro draw.io Claude Google Sheets Slack
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